柳緑花紅 ~もうひとつの終章~
mou-syu.jpg
小さな女の子の無垢な涙に背中を押され、俺とつくしは付き合い出した。

あれから十数年の時が経つ。
俺の隣にはいつもつくしの笑顔がある。

小さかった女の子は大人の女性になり、頼りなかった男の子は逞しく成長した。

二人との付き合いは今もずっと続いてる。





「あっ、いたいた!やっと見つけた!
って、本当は初めからここかなって思ってたんだけどね。ふふっ。」

「なんかさ…なんとなくここに足が向いちまうんだよな。」

本当は分かってる。
足が向く理由はただひとつ。

俺たちを結びつけた天使たち…って柄でもねぇ。
可愛い弟と妹が足しげく屋敷に通ってるからだ。

「どうするつもりなの?
きっとあの子たち、総が頷くまでずっと通うと思うよ?」

まるで他人事のようにつくしは笑う。

お前だって当事者なんだぞ?

その言葉は飲み込んだ。
つくしの笑顔を見ていたかったから。

幾ら歳を重ねてもそこだけは変わんねぇ。

つくしの笑顔が好きなんだ。
見れば見るほど好きになっていくんだ。





昔、総お兄ちゃんに言われた言葉をよく思い出す。

『大事なものはいつも傍にあるんだよ。
問題なのはそれに気づけるか?素直になれるか?なんだ。』

あの時は総お兄ちゃんが何を言ってるのかさっぱり分からなかった。

けどもう私は子供じゃない。
なんとなくその意味に気づいてる。

だから。

『好きだよ』

そう言ってくれた真っ直ぐな瞳と向き合うことに決めた。


総お兄ちゃんの言った通り。
タッちゃんはいつも傍にいてくれる。

「花ちゃん?どうかした?」

心配そうにタッちゃんが私を覗きこむ。

「ううん、なんでもないよ。もうすぐだね!」

「そうだね。今日も頑張ろうね、花ちゃん!」

「うん!」

タッちゃんはいつも優しい。
いつも私の味方をしてくれる。
でも時には叱ってくれる。

総お兄ちゃんとつくしお姉ちゃんもそうだった。
二人は私たちの憧れであり目標なんだ。





「「こんにちは!」」

あの頃の再現のようにその声は屋敷に響く。

「くくっ。また来たのか?まぁ、あがって。」

「いらっしゃい。ふふ。どうぞ。」

俺たちが二人揃って出迎える客は少ない。
花ちゃんと武瑠は慣れた様子で靴を脱ぎ揃え、俺たちの後ろを当然のようについてくる。

さぁこれから押し問答の始まりだ。


リビングに入るなり、

「総兄ちゃん!お願いします!」
「つくしお姉ちゃん、お願いします!」
「「二人は憧れなんです!目標なんです!!」

口を揃えてそう言った。

やれやれ…困ったもんだな。
つくしは何を考えてんのか俺の隣でニコニコ笑ってる。
これも毎度のことだ。

向かい合わせに腰を下ろすと、つくしと花ちゃんは鯛焼きを食べながら世間話を始める。
武瑠は俺を口説きにかかる。
俺は延々と断り続ける。

「引き受けてあげたら?」

ふとつくしが呟いた。

「総兄ちゃん!!」

武瑠は目を輝かせて俺を見る。

「おいおい!そんな呑気に何言ってんだよ?
そんな簡単な問題じゃねぇだろ?」

そう言ってもつくしはニコニコ笑ってる。
俺は武瑠に向き直る。

「武瑠。今のはつくしが勝手に言ったんだ!
俺はやらないからな!」

相変わらずつくしは呑気だ。
でもいつもはこんなこと言わねぇのに…?

つくしは気づいてんのかもしんねぇ。
けど…まだだ!
まだまだだ!!


押し問答の末に花ちゃんと武瑠は『また来るねー!』という言葉を残し帰っていく。
これもいつものこと。
俺たちはその後ろ姿が見えなくなるまで見送る。


本当は龍王寺の爺さんに頼まれてる。
若い二人がどれだけ本気なのかを知りたい…と。
何でも思い通りに進む訳ではないという事実を分からせたい…と。

俺は爺さんの話に乗った。

花ちゃんは可愛い歳の離れた妹。
武瑠は気のいい元気な弟分。

俺とつくしを結びつけてくれた二人だから。
幸せになってほしいから。





二人きりになったリビングでようやく息をついた。

「なんであんなこと言ったんだ?」

「うーん…なんとなく…?」

普通なんとなく言うかよ?
仲人だぜ?

「お前なぁ…まぁお前らしいか。」

「あの子たち、幸せになってほしいよね。」

「そうだな。」

首を傾げてつくしは俺を覗き込む。

「いつまで断り続けるの?
そろそろいいんじゃないのかなぁ?」

「お前知ってんのか?」

「えっ?何が?何の話?」

つくしはにっこり微笑んでる。
でもこの微笑みは何かを隠してるときに出るやつだ。

まぁいい。騙されてやるよ。

「何でもねぇよ。」

「そう?変なの。ふふ。」

つくしは明らかにホッとした様子でカップに手を伸ばす。
バレてるとも知らずに。

つくしが望むなら…叶えてやるのも悪くないかもな。


悪いな、爺さん。
あいつらは大丈夫。
俺の一番はつくしの笑顔なんだ。


つくしを引き寄せその頬にキスを落とす。

「俺たちももっと幸せになろうな。」

パーッと広がっていく笑顔が俺の幸せそのものなんだ。





おしまい







。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

注意

『柳緑花紅 ~もうひとつの終章~』の著者はGipskräuterサマで、このお話は河杜花が頂戴しました。
無断での転載、無断配布、二次加工などの行為を禁止致します。
それに準じた行為もです。
違反を見つけた場合、あわゆる機関に通報いたします。







関連記事
スポンサーサイト

Comment 0

What's new?