第3章 林檎[24] 


つくし side





よしっ!これで教科試験は全て終わった。
特待生の試験は残すところ、面接と論文だけ。
これを無事クリアできれば、進級できるはず 。
私は一足先に、ラウンジに来て論文の仕上げをしていた。

試験が先に終わったF3は春休みが始まると同時に、
家業の手伝いへとかり出されるのだという。
類はフランス、美作さんはイギリス。
西門さんは日本にいるけれど、九州、京都・・・。
私はというと、この春休みもバイトを入れるつもり。
でも、前みたいにガンガンシフトに入るのはやめようかなと思っている。
じゃあ、どうするかというと、バイトをしながらになってしまうけれど、
もう一度お茶のお稽古をしようかな・・・と。


西門さんにバイトコーヒーの淹れかたを教えてもらった事で、
今更ながら気がついた事があるの。
私が今まで西門さんに習っていたお茶は、
道明寺の婚約者として体面を保つために学んでいたお茶で、
西門さんが本当に大切にしている茶道ではなかった…ということに。

ファミレスのコーヒーの味なんて、こんなもの。
そういう概念で埋もれていた人間にとって、
味を向上させようなんて概念、サラサラなかった。
でも、西門さんはそうしなかった。
どんな場所でも、どんな状況下でも、どんな人たちと接しようと、
『一期一会』という言葉の意味通りに、
西門さんは私達にもわかるよう、実践してくれた。
私だけでなく、他のバイトの人たちにもわかりやすく・・・。
その別け隔てのない姿に、私は心惹かれてしまったの。

西門さんにもう一度お茶を教えて貰いたい。
西門さんみたいにお茶を通して人々の幸せを願いたい。
西門さんに近づきたい・・・。

そう、思うのっておかしいかな?
自分の心境の変化に自分でも驚いているけど、
自分のやるべきことが見つけたような気がして
なんとなく嬉しいのよね。

それに・・・西門さんに対して感じていたことも、
高校時代とはあきらかに印象が変わったなぁと思う。

高校時代の西門さんは常に女性をポイ捨てしていて、
女の敵だとしか思えなかった。
本気で人を好きになれないかわいそうな人だと思っていたし、
こちらから西門さんの心に近づこうとすると必ず先回りされて、
心の壁を深く堅く閉ざしてしまう。
だから、西門さんには嫌われているのかもと思ったりもした。

でも、それは西門さんの表面だけで判断していて、
本当の西門さんを知ろうとしていなかったに過ぎなかったからだと、
今ならそうわかる。

花火のとき・・・年相応の素直さと無邪気さにどきどきさせてくれた。
海では・・・私を突き放しながらも、優しく暖かく私を受け止めてくれた。
そして現在・・・。
静かに私を見守ってくれているとわかった瞬間から、
・・・ううん、きっと前から、西門さんの魅力に引き寄せられていたのだと。


論文の書く手を休めてキッチンに立った。
お気に入りの煎茶を淹れ、座って飲もうと向かった先は、
革張りの背凭れが高い1人掛けソファー。
庭が眺められる位置に置いてあり、大きな本棚があって、
少し手を伸ばせば本を手にする事が出来る。

いつも座ってみたいと思っていたけど、
ずっと、なぜか、ためらっていたその存在感。
実はこの一人掛けのソファー、西門さんの指定席・・・なんだよね。

私はまっすぐにソファーへと歩を進めた。
いつも西門さんの愛読書が置いてあるサイドテーブルにお茶を置き
そおっと肘掛部分にさわり、革の柔らかさを確かめた。
ゆっくりと躰をソファーに沈め、その感触を五感で感じとった。

ああ、西門さんの香りがるする・・・。

ほんのりと、椅子から香るお抹茶の香りが鼻腔をくすぐった。
まるで私を包んでくれているよう・・・。


サイドテーブルに置いた煎茶を手に取り、
すうっと深く息を吸い込んだ。
そしてその息を滞りなく吐ききる。
お茶を口に含め、確かめるように、のどを潤した。
暖かいお茶が、私のからだを駆け巡っていく・・・。


そっか・・・。
やっと・・・・・・。
やっと、わかった。
いつの間に、わたしは・・・。
私は、西門さんを好きになっていたんだ・・・・・・・。


明日、バイト先の表彰セレモニーに、
英徳学園前店代表として表彰される事になっている。
それが終わったら、西門さんにお茶のお稽古をお願いしよう。

そして・・・。

この小さく芽生えた恋心に向き合ってみよう・・・。
そう、私は決心したのだった。






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