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inspired by song  「木枯らしに抱かれて」



「木枯らしに抱かれて」





木枯らしが吹く風が強い日だった。
俺は英徳学園高校部にある茶室に向かっていた。

この茶室は家元が入学した頃に建てたものだそうで、
なかなか侘び寂びのきいた落ち着く茶室だった。
大学へ進学した今でも、こうやってふらりと来ては
独りになれる時間を楽しむ。

一通り心を落ち着けてから茶室を出ると、
いつの間にか陽が落ちかけていた。
風が吹き抜ける中を歩いていると、
牧野のお気に入りであったあの階段が見えた。


高等部のころから、牧野が唯一息抜きできる場所として、
よくここに来ていたのは知っていた。
赤紙貼られたと思ったら、司に追いかけまわされたり、
類への恋心を育んでいたり…。
家柄にも経済的にも何の不自由のないはずの幼なじみたちが、
真逆で何も持ってない牧野というボンビーな女に惹かれていく。

なぜなのだろう。
牧野は確かに不思議な女だと思うし、人柄の良さは俺にも分かる。
…けれど、女として見ることなんて、俺には想像できない。
いや………、牧野という女に心を奪われる自分を想像する事ができない
…というのが、俺の本音だった。



あの日の朝。
俺はいつになくイライラしていた。

相変わらず後援会の狸オヤジどもが五月蝿く、
俺の行動にいちいち口出しをしてくる。
憂さ晴らしをしたくても、こんな時に限ってだれもつかまらない。
仕方なく学校にきてはみたものの、何もかもが嫌になっていた俺は
茶室で時間を潰そうと、あの階段の側を通った。
そこには珍しく、朝から授業をさぼっていたらしい牧野が、
階段の踊場から一人空を見上げていた。
俺が近づいてきても、全く気がつかない。

いつも通りに冷やかして、からかってやるつもりだった。
少しはストレス発散になるやもしれない・・・。
顔が認識できるところまで近づき、
声をかけようと思った瞬間だった。

まるでスローモーションのように、ゆっくりとつたう涙をみた瞬間、
俺の周りの風が止まった。
空を見上げたまま、頬に一筋の涙が流れ落ちていく。
それが合図だったかのように、止んでいた風が吹き戻る。
それまで止まっていた風が勢いよく舞い上がると、
牧野の長い黒髪がはらりとその頬を包み込んだ。


息することを忘れるほどの衝撃が、俺を取り巻き、
蠢きはじめる。


ドクン。

ドクン。

心臓がゆっくりと鳴り響く。
儚く脆そうな泣き顔から目が離せない。
その涙の中にはどんな想いで閉じ込めているのかわかるだけに、
俺はただこうやって見上げることしかできない。


なんだよ…。
この感情に気が付いた途端に、振られてるじゃんかよ。
しかも、相手が悪すぎる。
アイツが想う相手は俺の大切な幼馴染じゃねぇか。
片想いなんて、キャラじゃねぇよな…。



届かない想いを密に抱え、ゆっくりとその場を離れた。
冷たく吹き荒れる木枯らしが身体を裂くように吹き、
ハラハラと落ち葉が俺の肩に落ちてかすめていった。
風に消されていく芯から冷えるような空気が、
前途多難な道のりを暗示するかのように。


あれから数年たった今。
牧野はN.Y.から幼馴染が戻ってくるという誓いを信じて
英徳学園大学へ進学してきた。
希望に満ち溢れる牧野の姿に
彼らの幸せを心の底から願えないのは罪になるのだろうか。

「友人」という微妙な距離感を演じる俺のこの想いに、
鈍感な牧野が気が付くことはないだろう。
俺の心の内に仄かに灯る火は激しさを増し、
もう誰にも消せない。

せつない片想い。
木枯らしの季節がまた来ている…。











こんにちは。


またまたSSです。

洗い物しながらぼ~っと、テレビを見ていたら
木枯らしに抱かれてが流れてきたじゃないですか!
懐かしい

思わず、「CMから流れるJPOPで物語」という
SSを作ってしまいました・・・。

この曲をリアルタイムで聞いていたころは、
エキゾチックなこの曲調がとても好きでした。
そこまでその時は歌詞を見出さなかったのですが、
大人になってみると、この歌詞の意味に深みを感じますね~

しかし・・・。
ちょこちょこ書いていたら、明日は3月
すっかり季節ハズレとなりましたが、お許しくださいね~✨




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